日刊工業新聞 「円滑化法終了前夜〜再生局面で思惑交錯〜」

2013/02/18

中小企業の10社に1社が利用した中小企業金融円滑化法―。金融機関からリスケジュール(融資の返済金額の減額や返済猶予、延長)に応じてもらうことで、経営立て直しの時間を与えることが法律の狙いだった。その「猶予」期間中の改革姿勢が、いま各社の明暗を分けつつある。 

 

【意欲問われる】

「円滑化法がなければ会社はもたなかった」。大阪府豊中市の産業装置メーカーの経営者は振り返る。毎月100万円だった返済額を利子のみの10万円に減額してもらっている間に構造改革を断行。三つあった工場は一つに集約。営業車も減らした。09年と同水準の受注額でも利益が出せる体質になったことで12年8月期は営業損益が黒字化した。12年末には取引先の地銀から「3月以降も返済額はこのままで構わない」と言われたが、月30万円とわずかながらも増やしている。

借り換えにより、債務者区分を不良債権と見なされてしまう「破綻懸念先」から「正常先」に戻した企業もある。

関西にある年商7億円規模の文具メーカー。金融機関5行に対し1億5000万円の借入金を抱えていた。2000万円の経常赤字にもかかわらず毎月の返済額は3000万円。資金繰りに行き詰まっていた。円滑化法利用後、3回にわたるリスケジュール更新と同時進行で、ずさんな原価管理を改め経費削減にも取り組んだ。12年6月期に経常損益が3000万円の黒字化したのを機にメーン取引先である地方銀行1行に10年返済での借り換えが実現。債務者区分も「正常先」に戻った。この企業の場合、経営改善計画の進捗(しんちょく)を毎月、5行に報告するとともにリスケジュール更新時に返済額を段階的に増やしていったことも金融機関からの評価につながった。

逆に再生が頓挫したケースもある。衣料品チェーンを展開するある企業はメーンバンクの地銀が支援に乗り出したものの、経営者が事業に対する意欲を失っていた。リスケジュールによって再建の兆しが表れ始めたところに、事業承継をめぐる親族対立から再生に失敗した老舗ファッションセンターもある。関係機関の積極支援で「机上では成功した再生案件」(関係者)でも想定通りに事は運ばないようだ。このケースでは「計画はあくまで『予定』。未達成もやむを得ないと、計画遂行に対する経営陣の意識が欠落している」(同社を支援するコンサルタント)。しかし、金融機関側は、地域経済を支える中核企業である同社への支援方針は貫く意向で数億円規模の債権カットにも応じている。

数多くの事業再生に携わってきた企業再建・承継コンサルタント協同組合(CRC)の真部敏巳代表理事は、「経営力改善の裏付けがなければ、再びキャッシュフローを失い、ただの延命に終わる可能性がある」と警鐘を鳴らす。技術や主要顧客が社長の属人的なものである場合が多く、社長交代そのものが困難な中小企業では「大手企業で事業の立て直しや子会社再建に携わった経験を持つ人材を経営再建の右腕として外から招くことも一策」と話す。

 

【融資に柔軟性】

「銀行とのつきあい方」―。こんなタイトルのメールマガジンがある。事業再生コンサルティング会社、フィナンシャル・インスティチュート(東京都港区)が発行する。6万5000人の読者のうち、リスケジュール企業を対象に昨年夏に実施したアンケートでは「リスケジュール中に銀行や信用金庫から新たな融資を受けられた」との回答は35%に上った。

金融庁は金融機関に対し、リスケジュール実施のみを理由に新規融資を拒んではならないと指導している。円滑化法施行前は、リスケジュール企業の債務者区分は「要管理先」以下となるのが通常で、新規融資を受けることは困難だった。だが円滑化法施行後は、経営改善計画があれば「不良債権」と見なされない。金融庁はこの監督方針は法律終了後も継続するとしている。「リスケジュール企業が新規融資を受ける土壌は整いつつある」。調査を実施したフィナンシャル・インスティチュートの川北英貴社長は評価する一方で、「リスケジュール更新時に少しずつでも返済を再開したり、経営改善計画を絵に描いた餅に終わらせず、損益改善を示すことが新規融資獲得のポイント」と話す。

中小企業の経営支援を手掛けるコラボレックス(大阪市中央区)では、リスケジュール中の資金調達に関する相談が急増している。阿波銀行出身で、中小企業の経営に詳しい、岸野浩通社長は既存の融資を劣後ローンに切り替える資本性借入金や売掛債権担保融資といった制度活用も視野に、まずバランスシート(貸借対照表)改善を図ったうえで「新たな金融機関と取引を始めるのもひとつの方策」と助言する。

金融機関をはじめとする支援機関の協調体制も問われる。地域金融機関の最大関心事は、ともに融資する他の金融機関の対応姿勢。製造業が集積する大阪東部を地盤とする大阪東信用金庫は、月3万円で経営改善計画の作成支援サービスを12年秋に始めた。すべての金融機関に通用する計画書をいち早く作成すれば「金融機関の足並みをそろえる際に役立つ」。もちろん事業再生を主導する狙いもある。そこには金融機関が乱立する「激戦区・大阪」ならではの事情が垣間みえる。

有力地銀が地元企業の再建を主導する「再生支援の土壌が根付いている」(関係者)とされる京都府や佐賀県。また静岡県は事業再生ファンドの数が最も多い「ファンド先進地域」として知られる。逆に大阪府では、ひとつの企業にメガバンク、地銀、信用金庫などが入り乱れ、再生局面では足並みがそろいにくいことが指摘される。事業再生に携わる関係者の温度差や「目線」の違いは、地域経済の行く末に影を落としはしないか―。

金融機関にとって、すべての取引先を「徹底支援」することは現実的ではない。ただ、徹底支援するか否かの判断材料は「金融機関の懐勘定(不良債権比率)とは別の次元であるべき」。リレーションシップバンキング(地域密着型金融)の推進論者として知られるアビームコンサルティング顧問の多胡秀人氏は、強調する。「雇用の受け皿としての役割、その企業につながる『地域商流』、そしてその企業が果たす『インフラ的役割』が決定要素となるべきだ」。

 

【すそ野広げる】

地域経済再生のカギを握る中小企業の経営改善を後押しするため、政府も支援体制の整備を進めてきた。各地の中小企業再生支援協議会の機能拡充はもとより、再生に携わる関係者の連携組織となる「中小企業支援ネットワーク」も12年末までに全都道府県に設置した。大型の再生案件が中心だった官民ファンド「企業再生支援機構」は、近く「地域経済活性化支援機構」に衣替えし、地域の中小企業支援に専念することになる。再生の難易度が高い一部の企業が中心だった支援のすそ野が広がることが期待される。

体制整備の時を終え、個別具体的な経営支援の実行段階に入った円滑化法問題―。ただ、事業再生は関係者が思い描く「あるべき支援の姿」がそれぞれ異なり、手法の統一や標準化ができない領域でもある。そこにこの問題の奥深さ、難しさがある。